甘い恋の賞味期限
 家賃に光熱費に、その他諸々、出費ばかりがかさばる。最近、家計簿でもつけようかな、と思っているし。

「おとなって大変なんだな」

「そう、大変なのよ。……君、自分の名前って書けるの? あ、ひらがなでね」

 周りに小さい子がいないので、正直、接し方が分からない。
 もっとこう、口調とかも変えた方が良いのだろうか?

「ひらがななら書ける。だから、漢字で書けるようになって親父を驚かせてやろっ」

(文句言う割に、お父さんのこと好きなのね)

 広告を引っ張ってくると、千紘は先程書いた千世の漢字をお手本に、自分の名前を練習し始める。

「オレのより、千世の方が簡単そう」

「そうね。私の名前、直線で書けるし。でも、私の名前書けるようになったって、意味ないでしょう」

 父親に自慢するのなら、やはり自分の名前を書けるようにならないと。
 ただ、片面が真っ白な広告にも限りがあるわけで。

「ほら、上手いだろ!」

「それ、私の名前よ」

 この調子から察するに、千紘はしばらく字の練習に没頭しそう。
 千世は立ち上がると、お店の方に顔を出す。

「母さん、いらない紙とかある? できれば白で、使い捨てにしても構わないやつがいいんだけど」

「ん〜? それなら、テレビ台の下にまとめて置いてるわよ。なんに使うの、千世ちゃん」

「私じゃなくて、千紘が使うの」

 娘が顔を引っ込めると、母親は嬉しそうに微笑む。

「ねぇ、千陽さん。なんだか、千世ちゃんに弟ができたみたいね」

「そうですね。けど、どちらかと言えば、弟より、息子じゃないですか? 咲世子さん」

「あぁ、確かに! 千世ちゃんも、もう25歳。結婚してもおかしくない歳よね」

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