甘い恋の賞味期限
 そう言ったら、千紘は分かりやすいくらいに頬を膨らませた。

「なんで静子が決めんだよ。オレの母ちゃんなんだ。オレが決める」

 千紘は騒がしい足音を立てながら、自分の部屋へ行ってしまった。残された静子は、血が出るほど強く、自分の唇を噛んでしまう。

「ずっと……世話してあげてたのに……っ」






 史朗が帰宅したのは、夜の8時過ぎだった。仕事の日よりも早い帰宅だが、それでも千紘はご不満な様子。

「ほら、土産のケーキだ。機嫌直せ」

 史朗はよく分からないが、フランス帰りのパティシェが作る、有名な店のケーキらしい。全種類、買って来た。

「いらねー。千世が作ってくれたプリンがあるもんねっ」

「千世? お前、また行ったのか?」

 千紘は答えてくれるはずはないし、唯一の情報源は、ひとつしかない。

「武内さん、また千紘はその……千世さん? って人のトコに行ったんですか?」

「は、はい。そうなんです」

 言えるはずがない。自分がマンションに来た時には、既に千紘は出かけていたなんて。監督不行き届きーーそれを知られたら、クビになってしまう。

「私、帰りますね。晩ご飯は作ってあるので、温めて食べてください」

「あ、はい。お疲れ様」

 静子は逃げるように、帰って行く。珍しいこともあるものだ。彼女はいつも、すぐには帰らないのに。

「千紘ーーそれはプリン、か? 随分とデカイな」

 キッチンに行けば、息子が冷蔵庫からボウルを取り出しているところだった。覗き込めば、中身はプリン。

「へぇ、プリンって家で作れるんだな。その千世さんって人は、パティシェか何かなのか?」

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