甘い恋の賞味期限
 キッチンに移動し、千世はとりあえず。冷蔵庫を開けてみた。

「……煮物がある」

「それは母が作ったものだ。母は料理にこだわりがない人で、作るものの大半が煮物だ」

 そして、千紘は煮物が好きではなく、史朗も口にはしないが、あまり好きではない。
 なので結果的に、薫子が善意で作ってくれた煮物は余ってしまう。

「……卵が……ない」

 オムライスを作る上で外せない材料が、これだけ大きな冷蔵庫に入っていない。
 何故?

「千世、早く作ってくれよ」

「……卵がなきゃ、作れないわよ。諦めることね」

「えー!!」

 抗議の声を上げる千紘に、千世は両耳を手で塞ぐ。

「作れないものは作れないの。ご飯もないしね」

 炊飯器は空っぽ。ケチャップはあるが、肝心な材料がふたつともないとは。
 この家、普段は一体何を食べているんだ?

「飯? あぁ、炊飯器なんて使ったことなかったから……」

 キッチンに来る時に触れるものは、冷蔵庫と電子レンジくらい。炊飯器は存在こそ認識しているものの、史朗自身が使ったことは1度もない。

(この人……変)

 人間、生きていれば炊飯器を使う機会はいくらでもある。
 それなのに、使ったことがないなんて……お金持ちの家に生まれから?

「ないなら買いに行けばいいじゃんか」

「そう、だな。卵はスーパーに売ってますよね?」

「卵を売っていないスーパーはないと思いますが……」

 この人、もしかしてスーパーにも行ったことないのでは? 息子とは違った意味で、心配になる人物だ。

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