甘い恋の賞味期限
 誰がどう見たって、史朗が自分に好意を抱いているとは思えない。
 それなのに結婚して、長続きするはずがないんだ。

「それに、私個人としても、専務と結婚はしたくないわ」

「なんでだよ? 千世は、親父のこと嫌いなのか?」

「嫌いって言うか……どーでもいい」

 素直な気持ちを伝えたら、千紘はショックを受けたような顔になった。
 けど実際、千世は本当にどうでもいいんだ。間宮 史朗になんて興味はなかったし、この先も接点を持つはずがないと思っていた。
 こんな形で知り合ってしまったが、それが千世の心に何かしらの影響を与えてもいない。故に、彼への素直な気持ちは【どうでもいい】。好きとか嫌いとか、そんな感情さえも芽生えはしない。
 そんな会話のすべてを、史朗が隠れて聞いていることを、千世も千紘も気づいてはいなかった。

(なるほど……なんとなく分かった。あいつが彼女に懐く理由が)

 どうでもいいと言われたことも、指輪やら結婚の話も気にしないで、史朗は考えを整理していた。
 千世と千紘の会話を聞きながら、あることに気づいたのだ。

(彼女は千紘を……千紘として見ているんだな)

 今まで会わせてきた女性達は、千紘を【間宮 史朗の息子】として見てきた。優しい言葉も素振りも、すべては千紘を通して、史朗へ向けている。
 それを、幼いながらも千紘は感じ取っていたのだろう。
 けれど、千世は違った。子どもを相手にしていも、自分を偽ったりはしていない。

「…………なるほど」

 自分の考えに納得して、史朗は再び、ふたりを見る。ショックを受けて固まる千紘を、千世が面白そうにツンツンしていた。

「あ……専務」

 史朗の存在に気づいた千世が、咄嗟にツンツンするのをやめる。

(息子には気楽に接しているが、俺が来ると緊張するようだな)

 それは当然だろう。
 史朗は気にもしていないが、千世にとって史朗は専務様。失礼なことをしてご機嫌を損ねれば、クビ、という最悪の結末が待っている。
 それならば、息子の千紘のご機嫌も気にすべきところなのだが、今更媚びを売るのはおかしいし、何よりも媚びを売る行為自体、千世の性に合わない。嫌われなければいいのだ、嫌われなければ。

「準備できた。行こう」

「は、はい」

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