甘い恋の賞味期限
 静子の主張を一旦無視して、千世は前から思っていた疑問を口にする。以前、千紘は言っていた。自分は可哀想だから、静子を呼び捨てにしてもいいのだと。

「それは……だって、可哀想な子じゃない。実際」

 少し狼狽えたのか、静子は席に座り直す。

「武内さんが千紘をどう思っているのかは、個人の自由だから何も言わない。けど、それを本人に言うべきじゃないと思う。相手は子どもよ? 言っちゃいけないことがあるでしょ?」

「どうせ、意味は分かってないもの」

「それは、今の千紘だから分からないだけよ。成長したあの子は、いつか【可哀想】の意味を知る。その責任を、貴女は背負える?」

 大人になってから言われるのと、子どもの時に言われるのでは、心にかかる負担が大きい。将来、千紘が子どもの時に言われた言葉の意味を知って、どんな気持ちになるのか?
 そんなこと、その時になってみなければ分からないけれど。

「それに、ふたりの問題でしょ。私を巻き込まないでよ」

 こんな怒りをぶつけられるなんて、理不尽だ。オレンジジュースを一気に飲み干し、千世は立ち上がる。

「あんたが現れなきゃーー」

「自分が振られた原因を、私に押し付けるのはやめて! ハッキリ言って、迷惑よ」

 グラスを乱暴にキッチンに置けば、一瞬、大丈夫かなと心配になった。
 けれど今は、グラスなんてどうでもいい。

「…………っ」

 唇を噛み、静子は黙る。正論を言われてしまえば、返す言葉を探すので必死だ。

「……私はホントに、間宮さんのコトが好きなの」

「別に、貴女の気持ちを疑ってるつもりはない。けど、伝えるべき相手は私じゃない。分かってるでしょ」

 伝えるべき相手は、史朗ただひとり。
 でも静子は、無駄だと悟っている。告白しても、史朗はこちらを振り向くどころか、興味さえも示してくれなかった。
 それを感じてしまった時点で、自分は素直に身を引くべきなのだ。

「…………」

 でも、納得できなかった。

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