甘い恋の賞味期限
 間宮家で働くために、たくさんたくさん努力した。料理も勉強したし、嫌いな掃除だって頑張った。
 それなのに、どうして史朗は自分を見てくれないんだろう?
 いろんな感情がまぜこぜになって、未練がましくマンションに足を運んだ日、見てしまった。千世と史朗が、一緒に入って行く瞬間を。
 それを見てしまった静子は、怒りとか、そういった感情を向ける相手に、千世を選んでしまった。
 こんな自分が、嫌になる。

「…………」

(なんか、急に黙っちゃったんだけど……。い、言いすぎた?)

 グラスを洗いながら、千世は気まずさで居心地が悪くなる。
 こんなことなら、今日は実家に顔を出すんじゃなかった。

「…………帰ります」

「あ、そう」

 黙っていた静子が、おもむろに立ち上がり、自分のバッグを手にする。
 まぁ、帰ってくれるのなら止めませんが。

「……迷惑かけて、ごめんなさい」

「なんだったんだろ……」

 静子はそれだけ言って、逃げるように喫茶店を出て行く。残された千世は、なんだかモヤモヤした気持ちのまま。不完全燃焼、といった感じだ。

「……あ、メール。心晴からか」

 濡れた手を拭きながら、自分のスマホを覗き込む。メールの差出人は心晴で、内容を読んだ瞬間、千世は露骨に嫌そうな顔をした。

【明日、飲みに行くから。迎えに行くから、絶対に逃げないように! 決定事項だから】

 頬杖をつき、スマホを指で押して遠ざける。出会いなんて求めていないのに、どうして心晴はこんなにもお節介なのだろう?
 静子が来たせいもあって、今はものすごく疲れているのに。

「あの人……専務のこと、諦めたのかしら?」

 あの様子からでは、なんとも言えない。諦めたようにも見えるし、まだ未練が残っているようにも見える。分かることは、行き場のない感情を、自分に向けてきたことだけだ。

「専務に言ってよ。本当に迷惑……」

 せっかく用意したのに、静子は一口もオレンジジュースを飲まなかった。
 それを一気に飲み干すと、千世は気分を変えるため、買ったばかりの料理本に集中することにした。

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