絶対主従関係。-俺様なアイツ-
「こちらでございます、愛子様」

 そういって振り向いてきた髭の男性。


「申し遅れました、私は晴海と申します。よろしくお願いします」

 懐かしくも感じる笑顔で、晴海さんはペコリと頭を下げてくれた。

なんだかつられてあたしも腰を折るように頭を下げていた。


「あ、あたしこそよろしくお願いします!涼原愛子です!」


 し、しまった……!


 昨夜、第一印象が大切だとおもって必死に練習したのに、めちゃくちゃな挨拶を返してしまった。


 後悔がずしりと肩にのしかかったけれど、クスクスと晴海さんの声が漏れる。

それにあたしも安心して、一緒に笑ってしまった。


 思ったより、使用人生活も楽しいのかもしれない。

そんな風に思った矢先だった。



「先ほどお目にかかったのが、このお屋敷・藤堂家のご子息様です」


 と、トウドウケ…?


 あたしは晴海さんの言葉で、すぐに頭が焦りでいっぱいになる。



 藤堂家っていうのは、うちの学校でも指折りの資産家。

寄付金の長者番付でもしたらおそらくトップだ。


 ……そう、あたしの奨学金の一部であろう。



 わなわなと手の震えが止まらなかった。


そして、もうひとつ、あたしには嫌な予感があった。



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