絶対主従関係。-俺様なアイツ-
「な、何……?」

 禅くんは賄いのメニューを言い当てるかのように、軽やかな口調で言う。


「今日いらっしゃるのは、帝の婚約者だ」


 こ、婚約……?

あたしの疑問だらけの顔に、禅くんは少しだけ優しく笑った。


「まあ、帝だけじゃなく皇さまもだけど、あの藤堂家の年頃の御曹司に結婚話がでないほうがおかしいよな」


 な、なんだろう……すごく、胸騒ぎ。


「こ、皇さまも?」

 思わずついで出た言葉に、苦笑いをされた。


「皇さまは──うん、まあ、いろいろあるんだろ」

 禅くんは口を濁す。

彼もまた、紅葉さんのことを知っているのだろうか。


「ほらほら、早く行こうぜ!そんな亀歩行じゃ俺まで怒られちまう!」


「ま、待ってよおっ!」

 ひょいとあたしのカバンをひったくるように肩にかけて先を行ってしまった。

慌ててその背中を追いかけた。



 背の高い柵が並び始め、お屋敷に近づいたことを知らせる。

「ねえ、禅くん、婚約者って……」

 一歩前を少し早めに歩く禅くんに追いつくのに必死だった。

「知りたい?」

 そういって立ち止まった彼の目は、ちょっとだけ怖かった。

なにか心の中を探るような、まっすぐな視線。


「だ、だって、あたし失礼なことをしてしまうかもしれないし……」

 まだまだ半人前なあたしだ、可能性はゼロではない。

けれど、禅くんの物言いたげな態度に、どうしても恐怖感を拭えなかった。


「……本当に?それだけ?」

 顔をうかがうようにされて、鼓動は早くなるだけだった。


「そ、それ以外に、なにがあるの……?」

 なんとか搾り出した声に、禅くんはようやくふっと表情を緩めた。


「ごめん、不安にさせたよね」

 ほんの少し鳴きそうにも見えたけれど、禅くんはいつものようにニカっと笑って見せた。


「大丈夫だよ。彼女は名家のお嬢様だけれど滅多なことでは怒らないし、むしろ愛子ちゃんを気に入るかもしれないね」

 禅くんにそんなこともわかってしまうのか。

それでも一抹の不安は残る。


「そうだな、強いて言えば……」

「強いて言えば?」


 ふと仰ぎ見た禅くんの言葉を復唱してしまった。

なんでもない言葉に続く、恐ろしいことを予感させる。


「お付の子がね、スゴイかも」

 と、なんともチャーミングにぺろっと舌を出していた。
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