絶対主従関係。-俺様なアイツ-
 学校でも、なんとなーく上の空。

「愛子、大丈夫?」

 そんな風に心配してくれる小町に、曖昧に濁すしかできなかった。

朝の疑問が、まだあたしをくすぶっていたからだ。


「何かできることあったら言って?」

 遠まわしな気遣いに、あたしはとても嬉しかった。

アイツならきっと、「ふん」とか「くだらねえ」とかいって一蹴するに決まってる。



 ──って、小町とアイツを比較するなんて、小町にかなり失礼だった!

そっと胸の奥で謝罪して、あたしは再び授業を受けていた。



 何も変わらない一日。

紅葉さんや他の先輩たちに比べたら序の口だけど、少しずつ手馴れてきてはいる。

 藤堂家の使用人は、食器の並べ方からシーツの張り方、お湯の温度と徹底されている。

そんな中、いつも数字がごちゃごちゃになってしまっているできの悪いあたしは、もう有名になってしまった。


 失敗は引きずらない。

牛丼屋でバイトしてたころのポリシーは、いまだに守っている。


「それではおやすみなさい」

 やはり紅葉さんがチョコ色の扉に消えて幾野を見送りながら、あたしは業務を終えた。


 ポリシーは守っている。

けれど、どうしても忘れられないモノがある。


 悔しいほど、妖艶な声が体の隅々まで疼くように、そして悩ましげに響く。


「うう、眠れない……」

 布団に入ってみるものの、アイツのあの言葉が頭をぐるぐる回る。


 あたし、誰と比べられたわけ?

それもあるけど……その先の疑問に、まだあたし自身が辿りつけていなかった。


「んもう!こんなんじゃ眠れるものも眠れない!」

 いきり立ったあたしは、むくっと体を起こし、意を決して部屋を出た。

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