絶対主従関係。-俺様なアイツ-
 使用人とはいえ、肌触りのよい生地で作られたワンピース型のパジャマ。

袖からひじの辺りまで大きく広がり、この時期にしては少し肌寒いくらいだった。


 両腕をこすりながら、あたしは闇に隠れるように進む。

今日は仕事をしつつ、あの『箱庭』の場所をどこか探してた。


消去法で道筋をある程度立ててはいたものの、やはり完全には把握しきれていなくて。


「やっばいわ…、また帰り道もわからなくなってるかも……」


 諦めることもできなそうな常態に陥りそうになったとき。

廊下のずっと奥の光が、ゆらりと動いた気がした。


「……な、なに?」

 恐る恐る柱の影を伝いながら、小走りでその奥を目指す。


 窓からもれる月明かりがよりその闇深さを誘う。

怖いものみたさ、それもあるけれど。

もし今回こそ本当に不審人物だったら、あたしには重大な任務が覆いかぶさるのだ。


 ゴクリとつばを飲み込み、壁についた手のひらがじわりと汗ばむ。

すると、ゆうらりとその後姿が廊下の角にあるひときわ多き照明に映し出された。


 あたしは、思わず足が止まった。

───だって、信じられなくて。


 静かに動かす長い足、シャツになぞられた細すぎず広い肩、この闇夜に解けてしまいそうな黒髪。

歩くたびに、毛先が魔法を使っているみたいに揺れる。


 あたしはそれを、知っていた。


角をそっと曲がったので、あたしもそれについていく。


 しばらくして、小さな声が漏れる。

何か喜ぶような明るいその声。


 そんな姿を、あたしは見たことがなくて───不安と怖さと好奇心が駆り立てる。



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