アクシペクトラム

龍宮さんはブラック派のようです

「先ほどは電話を頂いたのにすみませんでした」
龍宮さんは注文したコーヒーをブラックのまま口をつける。
あれから立ち話もどうかということで、私たちは近くの喫茶店に場所を移した。
「そんな、急に電話した私が悪いので…」
私はミルクを入れたコーヒーを、ぐるぐるとひたすらかき混ぜていた。
近くで見る龍宮さんはやっぱり凛とした顔立ちをしていて、女性社員たちが騒ぐのも納得がいく。
「まさか、あなたから電話を頂くとは思ってもいませんでした」
「そ、そうですよね…」
「それで、いったいどうされたんですか?」

その問いかけに私は手を止める。
偶然会ったものだから動揺していたが、そもそも龍宮さんに連絡を取ろうとしたのは、白羽さんの事をどうにかしてもらうためだった。
「あの、白羽さんなんですけどっ」
意を決して顔を上げると、先ほどからこちらを見ていたのか龍宮さんと瞳がぶつかる。
「白羽、ですか?」
表情を変えずに龍宮さんが聞き返す。
「は、はい…」
「もしかして、白羽がまたご迷惑をかけましたか?」
少しだけ龍宮さんの目が見開いた気がした。
「言ってください。もしそうであるなら大問題です」
「大問題…?」
すっと眼鏡を押し上げ、龍宮さんが眉根を寄せる。
「えぇ、白羽はインターシップの身。もし何か問題があれば即刻クビにし、内定も白紙にするようにと上から言われております」
「クビ?!な、内定?!」
ただのアルバイトかと思ってた…
どうやら白羽さんは、すでにホワイトタイガーに内定が決まっていて、さらに今はインターシップ中だったようだ。
「少し厳しくないですか…?」
おずおずと尋ねると、龍宮さんはコーヒーを口に運びさらりと言う。
「当然です」
そこまでバッサリと切り捨てられる白羽さんを思うと、なんだか気の毒な気持ちになる。
私も大学生の頃は就活をした。
なかなか決まらない中で内定を勝ち取った時は、心の底から嬉しかったものだ。
就職難な現在、この時期ですでに内定をもらっていることはすごいことだった。
それを思うと気軽にクレームなんてつけられない。
内定取り消しになったら、それこそずっと付きまとわれそうだし…
「それで白羽に何かされましたか?」
眼鏡の奥で龍宮さんが厳しい目を向ける。
頭の中がいろんな意見で溢れかえり、気づいたらときには龍宮さんの質問に首を振って答えていた。
「な、何もされてないですよっ…」
あぁ…私のバカ…

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