アクシペクトラム

私と彼のフィーリング

仕切り直し、と白羽くんはバツが悪そうな顔をする。
「色々振り回しちゃったから、今度はカオリさんの行きたいとこでいいよ」
最初のようにきゅっと手が握られる。
白羽くんなりに考えたのか、ただ単に絶叫系に乗って満足したのかわからないが、初めて白羽くんが私に合わせてくれた事が嬉しかった。
「私は白羽くんが楽しんでくれればそれでいいよ」
そもそも、私は彼女代理…
「それにこれで十分」
しゅんとしている白羽くんに微笑んでみせ、先ほど買って来てくれたオレンジジュースをストローで吸う。
さっぱりとしたオレンジの味に、氷が溶けてひんやりしていて、喉が渇いていた私には特に美味しく感じた。
「そんなのでいいの?」
「そんなのって…すごい美味しいよ?」
「………」
率直な感想を言うと、白羽くんはじっとカップを見つめてから、
「ひと口ちょーだい」
すかさず持っていたカップを引き寄せて、ストローに口をつける。
ふわりと風が吹き、茶色の髪が私の頬をくすぐった。

「ホントだ、うまい」
顔が触れそうな距離で白羽くんに見つめられる。
その近さに一気に頬が火照っていく。
「わっ…わたしのっ…!」
「だって俺のはさっき水汲む時に捨てたから」
「そ、じゃなくてっ…」
間接キスじゃんっ…!!
ぼっと耳まで燃えるように熱くなる。
落ち着け私…間接キスくらいで動揺するなんていつの時代よ…
私は早鐘を打つ鼓動を鎮めようと繰り返す。
きっと今時の男子はそれくらい朝飯前なのよ…
白羽くんの綺麗な瞳に私の火照った顔が映る。
だいたい彼女がいるくせにっ…
視線を逸らそうと俯くと、スカートの裾が砂で汚れていた。
「あ…」
さっきまで気にしていなかったが、女の子に駆け寄ってしゃがんだ時に汚れたのだろう。
やだ、私ったら…
片手には飲み物があるので、白羽くんと繋いでいる方の手を離そうとした瞬間、
すっと白羽くんが屈む。
「じっとしてて」
大きな手が、優しくスカートを払って砂埃を落としてくれる。
「カオリさんのこういうところ…」
「俺、好きだな」
口元をほころばせて、白羽くんがひとり言のように呟いた。
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