アクシペクトラム

見つけたモノ

部屋の隅っこを白羽くんが指差す。
「あれって猫のエサだよね?」
そこには猫缶と平らなお皿が置いてあった。
「前に来た時は見なかったけど、カオリさんって猫飼ってるの?」
白羽くんがお皿の近くにしゃがみ、キョロキョロと部屋を見渡す。
もちろん、ここに来た時から姿を見ていないのだから、今さら現れるはずもない。
「あぁ、それはね少しだけ世話してた時があったの」
私はそのお皿と猫缶を見つめながら、あの時のことを白羽くんに話した。

あれはちょうど、白羽くんと龍宮さんが謝罪に現れる数日前のことだ。
いつもの帰り道を歩いていた時、ふとどこからか猫の鳴き声がした。
実家のある田舎ならまだしも、こんな都会でノラ猫なんて珍しいなぁと思っていたら、
その鳴き声が可愛らしいものではなく、痛々しいような、苦しんでいるような感じに聞こえてくる。
声のする草むらを覗くと、トラ柄の成猫が足にケガをして横たわっていた。
そのままだとカラスにでも襲われてしまうんじゃないかと思い、私は自分の部屋までつれてきたのだが、手当の仕方もわからなければ、ペットを飼ったこともない。
結局、動物病院に行って手当をしてもらい、ついでに猫缶とエサ用のお皿も買ってきた。
「でもここはペット禁止だから、近くのペットショップにお願いして引き取ってもらったんだ…」
せめてケガが治るまでと思ったのだが、仕事で家にいない時間にもしものことがあったらと心配になり、やむなくそうすることにしたのだった。
ペットショップの方も快く引き受けてくれ、いつでも見に来ていいから、と言ってくれた。
「その後すぐに引き取り手が見つかったらしくて…」
あのトラ猫はいなくなっていた。
ケガをしていたのにも関わらず、その猫を飼いたいという人が現れたらしい。
この猫缶とお皿は、ケガが治ったのか気になってしまい、ついそのまま部屋に置いていた。

「…どうしてカオリさんはその猫をつれてきたの?」
白羽くんが猫缶を手に取って眺める。
「どうしてって…、何でかな?自分でもよくわからないや」
私は白羽くんの隣りに座り、そっとお皿を撫でる。
「ただ…、なんか放っておけなかったんだ」
「………」
答え方が曖昧だったのか、白羽くんは何も言わない。
お人好しとか世話好きとか、周りから言われることが結構ある。きっと白羽くんも私のことをそんな風に思っているのかもしれない。
そう心の中で思った時、
「カオリさんらしいね」
白羽くんが優しく目を細め、至近距離で私の瞳を見つめた。
トクンッ―…
眠っていた胸の鼓動が音を立てる。
気がつけばお互いの肩が触れ合っていた。
トクンットクンッ―…
ゆっくりと白羽くんの影が近づき、

「…っ……」

白羽くんの唇が私の唇に静かに触れた。

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