君色ドラマチック
出来栄えが悪ければ、割り勘ってこと?
そこまでして、感じの悪いこの男と飲みたくないんだけど。
と思いながら、愛想笑いで返しておいた。
さて、さっさと戻って仕事しよう。
立ち上がると、桜井さんも立ち上がる。
すると、予想外にその顔がずいと私の目前にやってきた。
「あんたって、結城のコネでこの業界に入ったんだって?色もわからないのに、今後どうするつもり?」
「なっ……」
怒りが全身に浸透する前に、桜井さんの前髪が一筋、顔の前に落ちる。
「結城が他のパタンナーに乗り換えないっていう保証はないよな。そうなった場合、あんたはどうするの?」
それは──。
緩んでいた栓がはじけるように飛んでいく音が聞こえた気がした。
胸の奥から、どろどろとした不安と疑念が溢れ、あっという間に私を真っ黒に染めていく。
「そう、なった場合は、そのとき考えます」
テーブルの上で、自分の指と桜井さんの指が触れそうになっていた。
まるで怖いモノから逃げるように、私は急いでデザイン画のおさまったファイルをつかみ、ミーティングルームの重い扉を押した。
指先が震えたのは、あまりに無遠慮な桜井さんの発言に怒りを感じたからか。
それとも、不安が本当に恐怖を呼んだからなのか。
まとわりつく黒い雲から逃れるように、私はヒールを鳴らして社内の廊下を全力で駆けた。