君色ドラマチック


出来栄えが悪ければ、割り勘ってこと?

そこまでして、感じの悪いこの男と飲みたくないんだけど。

と思いながら、愛想笑いで返しておいた。

さて、さっさと戻って仕事しよう。

立ち上がると、桜井さんも立ち上がる。

すると、予想外にその顔がずいと私の目前にやってきた。


「あんたって、結城のコネでこの業界に入ったんだって?色もわからないのに、今後どうするつもり?」

「なっ……」


怒りが全身に浸透する前に、桜井さんの前髪が一筋、顔の前に落ちる。


「結城が他のパタンナーに乗り換えないっていう保証はないよな。そうなった場合、あんたはどうするの?」


それは──。

緩んでいた栓がはじけるように飛んでいく音が聞こえた気がした。

胸の奥から、どろどろとした不安と疑念が溢れ、あっという間に私を真っ黒に染めていく。


「そう、なった場合は、そのとき考えます」


テーブルの上で、自分の指と桜井さんの指が触れそうになっていた。

まるで怖いモノから逃げるように、私は急いでデザイン画のおさまったファイルをつかみ、ミーティングルームの重い扉を押した。

指先が震えたのは、あまりに無遠慮な桜井さんの発言に怒りを感じたからか。

それとも、不安が本当に恐怖を呼んだからなのか。

まとわりつく黒い雲から逃れるように、私はヒールを鳴らして社内の廊下を全力で駆けた。



< 28 / 107 >

この作品をシェア

pagetop