イジワル上司の甘い求愛
浦島さんが卒業する日。
部室に挨拶に訪れた彼の制服の第二ボタンが欲しくて、声をかけたけれど振り向いた彼の制服にはもうボタンなんか1つもなかった。
「頂戴って言われて女の子たちにあげてたら、なくなった。しかも、裏ボタンまで」
坊主から少しだけ伸びた髪の毛に、こんがり日焼けした顔から真っ白な歯を覗かせていたずらっぽくそう言った浦島さんに、私は勢い余って告白したんだった。
「太郎さん、好きです」
「ごめん。チャキはそんなんじゃないから」
当時、私のことを千晶という名前からとったニックネームで『チャキ』と呼んでいた浦島さんは、明らかに困惑した顔して私に謝ったんだった。
進学して東京に行くことだって知ってた。
そもそも、告白なんてするつもりもなかった。
だけど、私は人生初の告白を事前準備なんて一切なしに行った。
そして見事、玉砕。
今思えば、あれはきっと、浦島さんの制服のボタンをもらった女の子たちに嫉妬してしまった、恋愛初心者の私が起こした、ただの暴走に過ぎなかったのだろう。