イジワル上司の甘い求愛
ゆっくりと振り返った私は浦島さんの顔を見上げることなんて出来ないままだ。
「……あぁ、覚えてるよ」
頭の上から聞こえてきた声は、一瞬戸惑ったようにも聞こえたけれど、やっぱり穏やかで優しい。
「チャキ、久しぶり」
そう言って浦島さんは、何も答えない私が持っていたままのグラスに乾杯する。
聞き慣れた声、近づくと漂う浦島さんの香水の匂いとそれから煙草の入り混じった匂いさえなんだか懐かしい気がしてしまう。
『久しぶり』
そう言われると、なんだか浦島さんがずっと遠くの人に思えてしまう。
「お久しぶりです……」
少しだけ、声が震えた気がした。