イジワル上司の甘い求愛


「チャキ?」

「浦島さん」

すれ違う人ごみの中から声をかけられて、それが浦島さんだってことに気が付くのにそれほど時間なんてかからなかった。

ざっくりとした編み目のセーターに黒のデニムにスニーカー。
東京ではお目にかかれない浦島さんの姿は、私の知っている特需販売事業部の部長ではなく、高校生の頃の『太郎さん』をそのまま大人にしたような雰囲気。


「いつもと雰囲気違うから一瞬分からなかった」

そう言ってわずかに肩を揺らしたのは私ではなく、浦島さん。


そうだった、私だってリビングで寝正月しようとしていたところをお母さんに追い出されたせいで、パーカーに細身のジーンズ姿だ。起き抜けのままの頭はニット帽で隠して、私こそ高校生みたいな格好してしまっている。

「浦島さんこそ」

私は恥ずかしくって仕方なくって口を尖らせながら、呟いた。

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