なつの色、きみの声。


最寄り駅で電車を降りて、大宮くんに家まで送ったもらった。

部屋の明かりがついていないことに気付いたのは、玄関のドアを開けてから。


21時前なのに、家にお母さんがいないのは珍しい。

ずっと鞄に入れていたスマホを確認すると、お母さんからメッセージが届いていた。

帰りが遅くなるという内容に一言返信をする。

今お母さんと顔を合わせて、今日何をしていたかなんて話になったら、きっと普段通りのわたしではいられなかったと思う。


ひとりでいられることにホッとしながら、重い体を引きずってお風呂に入った。

ドライヤーをする元気は残っていなくて、今日だけはサボってしまおうと暗い自分の部屋に行く。


布団に倒れ込むように横になり、目を閉じる。

体は重いし、頭も痛い。

早く寝てしまいたいのに、妙に目が冴えてしまう。


スマホを手に取ると、暗い部屋の中で目の前だけがパッと明るくなる。

眩しさに目を細めながら、メッセージアプリに登録された新しい名前を見つける。


碧汰。

プロフィールアイコンに設定された海の写真は、今日碧汰と会ったあの浜辺から見える景色。


空っぽの履歴をしばらく見つめてから、文字を打ち込む。

『さっき、家に着きました。今日は突然訪ねてごめんね。会えて嬉しかった』

当たり障りのない文章にしようと思うと、素っ気なくなる。

かといって、ここから広げる話も見つからない。

話したいことはたくさんあったはずなのに。


短い文章に言葉を足すことなく送信して、返信は待たずにスマホを布団から離れた場所に置く。


このまま眠ってしまいたい、そう思っていると、スマホから通知音が聞こえた。

一晩寝たくらいで吹っ切れる気持ちではないけれど、明日の方が幾分か気分が晴れていると思う。

今確認する必要はないと自分に言い聞かせながら、やっぱり我慢できずにスマホに手を伸ばす。


『無事に着いたならよかった。母さんに海琴のことを話したら、今度は会いたいって言ってたよ。おれ、今もまだ夢なんじゃないかと思っていて、メッセージが届いて安心した』

『今度は教えてくれたら、駅かバス停に迎えに行くよ』

『今日は会えてよかった。じゃあ、また。おやすみ』


何度もメッセージを見返して、本当に碧汰と連絡を取っているんだって噛み締める。

当たり前のように、次があることを話していて、それを素直に受け取るには、色々なことがありすぎた。

迷った末に、おやすみ、とだけ返信をした。

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