なつの色、きみの声。
スマホから通知音が聞こえて、すぐに手に取る。
『海琴、熱でもある?』
『風邪ならゆっくり休め。バイトにも行くなよ』
『返信もいいから。何か食べて、薬飲んで、寝ろよ』
どうしてわかったんだろう。
さっき送ったメッセージを読み返すと、変換ミスがあちこちにあった。
熱があるのかと聞いておきながら、わたしの返信を待たずに断定してしまうところが碧汰らしい。
この言葉通りに、眠れたらいいのだけれど、今は誰かとやり取りをしていた方が気が紛れる。
とはいえ、文字を打ち込むのも辛くて、迷った末に通話ボタンを押した。
何度かコール音が続く。
そういえば、碧汰って、電話はできるんだっけ。
機械の音を通すとまた違うかもしれない、そう思って一度切ろうとしたとき、ぷつっと通話が繋がる。
『……海琴? どうした?』
「碧汰……ごめん、声、聞きたくて」
掠れた声は碧汰に届いているかわからない。
できるだけはっきりと声にしようとしても、喉ががらついてうまく喋れない。
『聞こえてるから、無理に声出さなくていいよ』
「でも……声、聞こえづらくない?」
『海琴の周り、静かだから声だけ聞こえてるし、平気。こっちが移動するから少し待って』
通話の向こうでガタガタと物音がする。
そういえば、この間言っていた。
雑用と補習で学校にいることが多いって。
今日もそうなのだとしたら、このまま通話を続けていていいのかな。
『美奈希、先に出るから戸締り頼んだ』
心配していると、そんな声が聞こえて息を飲む。
勝手に、碧汰はひとりでいると思っていたけれど、誰かと一緒にいたっておかしくない。
誰か、というか、今名前が聞こえた。
『今日は夕方までいるんじゃなかったの?』
『用事ができた。ごめんな』
隣にいるわけではないようで、美奈希さんの声は少し離れたところから聞こえた。
程なくして、ドアの開閉音が聞こえると、通話に入り込んでいたエアコンの音が消えた。