なつの色、きみの声。
定刻通りにやって来たバスに乗り込む。
太陽を避けるように陽の射さない座席を選んだ碧汰と通路を挟んだ席に座る。
グレーのレンズは色濃くて、碧汰が眼鏡の向こうで目を開けているのか伏せているのかわからない。
白い雲が青空との均衡を崩して、高く積み重なる。
太陽はその中に紛れて、束の間姿を消した。
碧汰といる間だけでも、出てこなかったらいいのに。
ふとした願いは届くことなく、町について降りる頃にはまた燦々と陽光が頭上に降り注いでいた。
バスを降りて、行き先も告げずに歩いていく碧汰の後に続く。
「陽汰に会わせたかったんだけど、今日もいないんだ」
「えっと……また検診か何か?」
正直、碧汰の弟のことは頭になかったけれど、そう言われたら会えないのは残念に思う。
「何もなければ、それがいちばんだからな」
「どういうこと?」
碧汰の言い方にはどこか含みがあって、首を傾げる。
「また話すよ。とりあえず、家でいいよな」
「あ、おじいちゃんに挨拶してもいい?」
「じいちゃんなら木曜は人んちに行ってると思うけど……寄っていくか」
家は隣だし、と碧汰はおじいちゃんの家に寄ってくれた。
碧汰の言う通り、家の鍵は開いていたけれど、中に人はいない。
おばあちゃんの仏壇に、今度は忘れずに持ってきた手土産を供えて、居間のテーブルに書き置きを残した。
未だにある垣根の隙間から碧汰の家に向かう。
五年前と変わらない場所にある部屋に入ると、碧汰は一度廊下に出ていった。
程なくして戻ってきた碧汰の手には二本のアイス。
「バニラ? チョコ?」
「バニラ」
「だよな」
わかってた、とでも言いたげに渡されたアイスを受け取る。
ベッドフレームに背中をもたれて、アイスを食べながら部屋を見渡した。
「あんまり見るなよ」
「綺麗に片付けてるんだね」
「そりゃあ、人が来るってわかってたら片付けるよ」
「いつもは散らかってる?」
「それなりに」
ふと目についた押し入れの襖が片側外れかけていることに気付いて指摘すると、ばつが悪そうに目を逸らす。
いつの間にか眼鏡はテーブルに置かれていて、アイスを食べ終えるころにちらっと碧汰を見遣ると、タイミング悪く目が合う。
軽口を叩き合って、何だか昔に戻ったようだと弾んでいた心が、本題を思い出してしまう。
真面目な顔付きになる碧汰に、もう少しこのままでいたかったなんて言い出せるわけもなく、姿勢を正す。