なつの色、きみの声。
「碧汰」
向かい合って名前を呼ぶと、碧汰の瞳が揺れた。
五年前も、今も。
わたしの目の前にいる、碧汰のことが。
「好きだよ、碧汰」
目を見て伝えた瞬間、体中が熱くなる。
後悔じゃない。
きっとこの後、聞きたくないことを聞かないといけない。
それでも、胸を占めるのは後悔じゃない。
やっと、伝えられた。
碧汰はわたしを見つめたまま、言葉を発しない。
碧汰が口を開くのを、ただじっと待つ。
不意に、セミの鳴き声が聞こえた。
多分、ずっと聞こえていたはずなのに、今やっと耳に入ってきた。
あの頃、生きている意味を探そうとしていた。
地中深くにいたセミは今頃、羽化してその声を聞かせているのだろうか。
生きている間に見つけられないかもしれないと思っていた。
今も、その意味を正しく理解してはいないのかもしれない。
でも、確かなことがひとつだけある。
遠い、夏の思い出が、ひとりきりの夏を支えてくれていた。
碧汰のいない夏も、碧汰のいた夏を想って、生きてきた。