なつの色、きみの声。
帰りの電車の中で、碧汰の連絡先を消そうとスマホを手に取った。
削除しますか? と確認のメッセージが出てきて、迷わずに『はい』を押そうとするのに、指先が画面に触れない。
もし、本当に消してしまったら、碧汰との繋がりが一切途絶えてしまう。
手放してしまったら、きっともう取り戻せない。
今日のことで、わたしと碧汰の関係は決定的に変わってしまって、それでも、連絡先を消すことはできなかった。
最寄り駅で降りたあと、太陽はまだ真上に近い場所にあった。
こんなに早く帰ることになるのなら、バイトがある日にすればよかった。
家には帰りたくない。
ひとりになりたくない。
美衣の顔が頭に浮かぶけれど、美衣には碧汰のことを話していないし、急に呼び出したら何事かと心配させてしまう。
それに、好きな人に想いを伝えにいって、自分の感情のままにしてしまった行いを美衣に話したくなかった。
そんな人だと思われたくない、惨めな自分を、知られたくない。
気付いたら、家とは真逆の方向へ歩いていた。
行く宛はなく、日差しを遮るものもない炎天下。
せめて日陰を歩こうと道路を挟んだ向かい側の歩道に目を向けると、見覚えのある制服を着た男子が歩いていた。
大宮くんと同じ高校の制服。
つんつんと尖った短い髪は、どう見ても大宮くんではないけれど、そういえば以前、夏休み中にも授業があると話していたことを思い出した。
足を止めて、ぼんやりとその人のことを見ていると、不意に立ち止まってこちらに顔を向けた。