虹色のラブレター
夕食が終わってから、二人でシンクの前に立って食器を洗っている途中で、千鶴が突然思い出したかのように言った。
「ね?ドライブ行かない?」
まさかそんなことを言い出すとは思ってもみなかったので、僕は躊躇った。
『え!?今から!?』
「うん、ちょっとだけ。駄目?」
千鶴の表情はおねだりをする子供のようだった。
『いいけど……。じゃ、車取りに帰らないと』
「やった!!じゃ、早く終わらせて用意しなきゃ」
『うん。でも、どうして急に?』
千鶴は急いで食器を洗い流しながら言った。
「去年、オールした時に智が言ってたじゃない」
『ん?何?』
「嫌なことがあった時は、窓全開にして思いっきりスピード出して走るんだって」
『ああ……うん。』
僕は、千鶴が言う「嫌なこと」とは、昨日のことを言ってるのだと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
僕は千鶴の表面的な態度や仕草、表情しか見ていなかった。
その裏に隠された真実に触れてもいなかったし、見ようともしなかった。
それどころか、気付いてもいなかった。
千鶴にとって、この日はもっと「特別な日」で、それは、僕にとっても「特別な日」であるはずだった。