Uncontrolled(アンコントロールド)
「ここは先輩の俺に任せなさいって」

「いいえ。同じ分だけ食べて飲んだのに、お世話になる訳にはいきません」

金額を確認した星名が一瞬怯んだ隙をついて、朝倉が素早く伝票を伏せて自分の元へとやり、そこではっとした彼女が伝票を掴んでと、座卓の上では、引っ張り合いの押収が繰り広げられている。

「でもね。ここは男の顔を立ててね。ほら、お店の人も待っていると思うし。じゃあ、こうしよう。今日は俺が持つから、次回は星名ちゃんにお願いするっていうのはどうかな」

「次回が本当にあればですけど」

「何それ。逆アプローチ? 星名ちゃんって、結構大胆なところあるよね。ていうか、俺が男として見られてないだけか」

「男としても何も、私に彼氏がいるのは知っているじゃないですか。なのに、どう発展させるんですか? それに、先輩は、会う女性みんなに同じことを言ってそうだし……」

「何、今の沈黙。奪ってほしいんなら、お望み通り、そうしちゃうけど」

「一彰に特に不満はないし、大丈夫です。ただ、冗談でも、先輩のような人から誘われるのは嬉しいですよ」

朝倉の顔が一瞬赤く染まる。言われて照れたらしい。色男なのに、意外と慣れていないのかと不思議に思いながら、その姿を見つめる。

「星名ちゃんて、素直だよね。そういう、手の内見せるようなことは普通言わないもんじゃない?」

「今日先輩に会って、結構ざっくばらんに色々話してくれたみたいだったので、駆け引きとかそういうの苦手だし、私も先輩には思ったまま伝えることにしたんです。だめですか?」

朝倉の顔を見上げれば、彼の瞳に自分の姿が映っている。朝倉の黒目がわずかに左右に動く様子を追っていると、彼が挙げた右手がふわりと頭上に置かれて、男らしい大きな手のひらのを感じる。とくん、と思いがけず小さくなった心音に持つ手が緩んだところで、朝倉が伝票を取り返した。

「酔ってる訳でもないんだとしたら、星名ちゃんて、結構やり手だよね」

尚も何か言いたそうに星名を見つめるも、朝倉はぱっと頭から手を離して呼び鈴を押す。「失礼します」と、声がけのあとに襖を開けた店員に対して、スマートに自分の財布から今夜の食事代を支払った。

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