Uncontrolled(アンコントロールド)
二人してコーヒーを啜りながら映画談議に花が咲いてしまい、結局セットしたDVDは後回しになってしまったのだ。
朝倉は、大学時代にふらりと入った名画座にハマって以来、新旧問わずまた邦画洋画も問わず観るようになったのだという。
星名も往年のモノクロフィルム時代のハリウッド映画から新作や話題作も含めて、特に高校時代は時間が許す限りレンタルショップに通いつめては、受験勉強の息抜きとばかりに貪るように観ていた。その当時の夢が映画翻訳家になるというものだった事も勿論大きく関係していた。

「ということは、大学時代に留学したのは翻訳家になりたくて?」

何杯目かになるコーヒーを星名と自分のカップに注ぎながら、朝倉が尋ねてくる。
まだその話は彼にはしていなかったはずだと、星名は首を捻りながら朝倉を伺えば、彼はすぐにその意図に気付いて口を開く。

「そういえば当時、航平から聞いたなと思ってさ。俺を大学まで追い掛けてきたくせに一度も声を掛けてこないし、気付けばいつの間にかシアトルに行っているらしいって、あいつにしては珍しく酒に酔ってそんな事言ってたんだよ。ちょうど就活で内定出た辺りだったから、ほっとしたのもあったんだろうね」

朝倉がたまに会話の中に出す‘航平’という名前を聞かされると、もう何年も昔のことなのにぎくりとしてしまう。
一彰を介して朝倉と再会した時も今も、なぜか後ろめたい気持ちになってしまうのは、未だに繰り返し見る夢のせいなのかもしれない。

< 38 / 59 >

この作品をシェア

pagetop