Uncontrolled(アンコントロールド)
簡単な自己紹介を終えて飲み物を頼んだところで、朝倉が口を開く。

「一彰。あとあとだと面倒なことになるかもしれないから最初に言っとくわ」

そう言って、星名へと視線を送る彼にぎくりとするも平静を装う。何を言おうとしているかは検討がつくが、10年振りの再会とはいえ、朝倉は星名の悪いようにはしないという自信があった。

「実は、星名ちゃんて、俺の高校時代の元カノだったりして」

肩を竦める朝倉の隣りで、一彰は一瞬顔を強張らせると、真意を確かめるべく星名を窺う。そんな彼の横で、朝倉はまるで空気を読めないかのように続ける。

「写メ見せてもらったとき、もしかしたらとは思ったんだけどさ。何せ10年近く前のことだしメイクもしてるから確証はなかったんだけど、すっかり大人の女性になっていて見違えたよ」

朝倉が一彰と星名の様子を交互に窺っていることには気付いていた。二人がどんな言動を取るのかハラハラして見守っているというよりは、自分から口火を切ったこともあって、その視線は試すような少し意地が悪いものだ。
けれども星名は素知らぬふりで口元に笑みを作り、一彰に頷いてみせる。

「私も最初、あれ?って思ったけど自信がなくて。でもホント吃驚しました。お久しぶりです」

同調すれば、一彰はその顔から陰りを消して白い歯を見せる。

「そうだったんだ。あえてそこは内緒にしとけよって思ったけど、確かに笙吾さんが言ったように、気遣いからコソコソされるよりは、今聞いておいて良かったよ」

一彰はこの話はここまでと、「それじゃあ、メニュー決めましょうか」とメニュー表を広げる。

図らずも、恋人との間にひとつの齟齬を生じさせてしまったことを悔やむ日が訪れたりするのだろうか。星名はふと、遠い記憶の中に眠らせたままの、いつも少しだけ悲しそうな横顔をふと思い出す。
朝倉が話したことは本当だが、事実とは異なる。けれども、周知の事実が真実だというのなら、朝倉と付き合っていたことはやはり本当だということになる。
それを知っているのは、朝倉と星名、そしてもう一人。

< 8 / 59 >

この作品をシェア

pagetop