Uncontrolled(アンコントロールド)
手洗いへと一彰が席を立つと、朝倉はその顔をふと少年時代を連想させるような柔和なものへと変化させる。彼を懐かしく思う気持ちから、星名の目にそう映っただけかもしれない。

「本当、久しぶりだね。さっきは、星名ちゃんかどうか自信がなかったって言ったけど、本当はすぐに分かったよ。確かに大人の女性になって、ぐっと魅力的になったけど、雰囲気はあの頃のまま、俺が好きだった頃のままだね」

「先輩は、相変わらず女の子を喜ばせるのが上手ですね。こっちに進学したのは知ってましたけど、まさかこんな近くにいるなんて思ってもみなかったです」

ほんのいっときとはいえ、青春時代を共に過ごしたからだろうか。10年というブランクを置いてもなめらかに会話が進んでいく。当時から朝倉は、気が付いた頃には既に相手の懐に入り込んでいるような、瞬時に絶妙な距離感を計れるセンスの持ち主という事もあるのだろうが、お互いの腹を読みあったり、出方を窺ったりといった一切の駆け引きは存在しないように思えた。

「ずっと前から、上京組のやつら集めて同窓会やらないかって話が出ては立ち消えになっていたんだけど、せっかく星名ちゃんと再会できたから、ちょっと真面目に声掛けてみようかなって思ってるんだ。その時は改めて連絡させてもらってもいい?」

颯爽と、ジャケットの胸ポケットからネイビーの型押しの名刺入れを取り出す朝倉に合わせて、星名もバッグから予備として持ち歩いている名刺を差し出す。習慣とはいえ、二人して思わずビジネスライクな名刺交換をしてしまい、顔を見合わせて苦笑いする。

「勿論です。朝倉先輩に会えるってなったら、きっと女子は盛り上がりますよ。ちなみに、今、彼女さんはいるんですか?」

純粋な気持ちから尋ねれば、朝倉はふと目元を和らげてハハっと笑う。

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