有害なる独身貴族

モニター試食会の時でさえこうだ。

「ご挨拶すればどうですか」と言ってみたけど、「担当は光流だからいいんだよ」と言われてしまう。

数家さんのご挨拶が終わった辺りで料理を運ぶ。

今回のメニューはラタテュイユだ。
この料理を見るたび、店長と二人ででかけた日を思い出してなんだか胸が騒ぐ。

あの日貰ったワンピースも、着ては脱ぎを繰り返し、未だ一度も店長には見せてない。
なんだか気恥ずかしくて、勇気が出ないのだ。

お料理が進んでいくうちに、新しいモニターさんである谷崎さんが、「ラタテュイユとカポナータって何が違うんだ?」と言い出した。

数家さんが珍しくうろたえる。
私も知らない。カポナータってどんな料理だったかな。


「この間別の店で食べたんですよね、こんなかんじの野菜煮込み。カポナータって名前だった気がするんだけど」

「ラタテュイユがフランス料理でカポナータがイタリア料理だったと思いますが、……ちょっと詳しく厨房で聞いてきます」


谷崎さんの問に数家さんが対応しようとしたところ、紫藤さんが待ったをかけた。


「私、分かりますよ。二つとも材料は殆ど一緒なんですが、敢えて言うならカポナータの方はナスが主役になりますね。そして素揚げするんですよ。ラタテュイユは……」

「……炒め煮ですね」


数家さんが最後答える。
さすが栄養士の紫藤さん。でも、ちゃんと食らいついていく数家さんも私から見たら凄い。


「ふうん。俺には詳しいこと分からないけど似てても違うんだな。だったら食べ比べ出来たら楽しいのに」


ポツリと鍋に箸を突っ込みながらこぼす谷崎さんの一言に、数家さんが目を向けた。


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