有害なる独身貴族


 営業時間が終わり、皆が一様に片付けに入る。
店長や馬場さん、数家さんは厨房の方に入っていて、私と上田くんが店内の掃除、高間さんがレジの集計をしていた。

奥の小上がりのテーブルを拭いていると、上田くんが座布団を重ねながら近づいてくる。


「房野さん、今日一緒に帰りません?」

「ごめん、私少し残って片付けたいものとかあるから」

「待ってますよ?」


無邪気に近寄ってきてくれる上田くんに対して、動物に懐かれるような感覚でいたけれど、さっきの言葉で少し目が冷めた。

彼はちゃんとした男の人だ。
お茶を濁すような対応していちゃダメなんだよね。


「……ごめん。一緒には帰れないよ」

「どうしてです?」


一ヶ所に座布団をまとめて、私の顔を覗き込むように身をかがめ、テーブルに手をつく。
重なりそうになった手を反射的に引っ込めた。


「房野さん?」


困ったような寂しい顔をされて、私はうつむいた。


「私、上田くんが望むようには付き合えないよ」

「俺は対象外ですか?」

「対象になるんだって思えたから、一緒には帰れない」

「……もしかして昇格しました?」


期待しないでって意味で言ったはずなのに、返されたのは前向きな言葉。
昇格……って言い方が正しいのかは分からないけど。


「そうなの……かな。だから、ごめん」


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