有害なる独身貴族
「まだ、ごめんって切り捨てるには早いっすよ。房野さん、好きな人とかいないんでしょう?」
「……それは」
いる。
でも伝えるつもりのない恋だ。それは、恋にはカウントされないのかな。
「いいっすよ。俺、のんびり房野さんのこと口説きますから。今すぐ返事とかいらないっす」
そういうことじゃないんだけどなぁ。
でも、答え方が分からなくてうつむいてしまう。
「こら、上田。さぼってないで働け」
と、声をかけてきたのは、レジからこちらを見ていた高間さん。
不穏な空気を感じ取ってくれたのかも知れない。
「別にサボってねーっす!」
「ホントかよー」
高間さんがからかうような声をだし、固まっていた空気は戻った。
「わ、私、ふきん一回洗ってくる」
逃げ出すように洗面所へ向かったら、厨房の方から数家さんが覗き込んでいた。
別に悪いことをしているわけでもないのに、気まずくて目をそらす私。
今の話聞かれてたら嫌だな。
店長に聞かれたら。
……でも聞かれても、別に何が起こるわけでもないけどね。
彼は私のことを好きでもなんでもないんだから。
胸が痛いのに、私はそれを無視しようとしている。
店長を失うのが怖いから、気持ちを伝えたりしないでずっとこのままでいたいと願ってる。
私は弱虫だ。
その点、上田くんのほうが大人で前向きかもしれない。