有害なる独身貴族
「な、なによ。褒めたって何にも出ないわよ。それより、もう遅いし、ふたりとも泊まってく?」
照れたように顔をそむける刈谷さん。
「いえ、私は」
確かに動く気力はあんまり無いけど、流石にこんな熱々の二人の間を邪魔するわけにもいかないしな。
「今更遠慮することないわよ」
「いや、房野は帰ろうか」
快く笑顔を向けてくれた刈谷さんに対し、数家さんが意外なことを言い出した。
「タクシー呼ぶから、まっすぐアパートまで帰りなよ。絶対寄り道とかするなよ」
「ちょっと光流。女の子をこんな時間に一人で帰すなんて酷よ」
「だからタクシー呼ぶって」
反対する刈谷さんをあしらうように電話をかける。
ブツブツ言う刈谷さんに、「良いんです。お邪魔したら悪いし」と冷やかしも込めて言ったら、「泣いてた女がそんな強がることないのよ」と一蹴された。
刈谷さんは案外、面倒見の良い人なのかも知れない。
数家さんは宣言通りタクシーを呼ぶと、行き先を告げ先にお金を払い、送り届けたら電話をよこすようにと番号まで教えていた。
「何度か使ってるタクシー会社だから心配することないよ」
「お金、私大丈夫です」
「いいから歳上のいうことは聞きなよ。それより、……房野、絶対逃げるなよ?」
「……はい?」
何に念を押されているのか分からずに、タクシーに揺られて自分のアパートに向かう。