有害なる独身貴族


 それから一時間後、まず馬場さんがやってくる。
馬場さんは、片倉さんを見るなりホッとしたように笑った。


「橙次さん、復活した?」

「おう、昨日急に頼んで悪かったな、幸紀」

「貸しにするだけだから、問題無いです」


その後、私を見つけると無表情のまま「ごくろうさん」と呟いて事務所へ入っていく。
相変わらずあまり多くは話さないけど、なんだか安心感のある人だ。

その後、けたたましく入ってくるのは上田くん。
上田くんは昨日お休みだったので、店長が休んだ顛末は知らず呑気なものだ。厨房のメンツには軽く挨拶をして、一目散に私の方へ来る。


「おはよーございます。あ、房野さん、今日なんかカワイイっすね。どこだろ。んー、分かった、お化粧変えました?」

「そう? ありがとう。知り合いにね、お化粧の仕方教えてもらったの」

「すっげ、いいっす。写真撮りたいくらいですよ」


これだけ素直に褒められると、困るけど嬉しくもあるかな。
片倉さんなんて、お化粧の変化には気づいてもいないみたいなのに。


「こら、上田。つぐみにちょっかい出すな」


とか考えているうちに、片倉さんが調理の手を止めてやってくる。


「まだタイムカード押してないっすよ。サボりじゃないです」

「そうじゃなくて。今後一切、つぐみを誘うなって言っている」


敢えて上田くんに見せつけるように、私の頭をくいと引き寄せる。

予想もしなかった行動に顔が赤くなってきた。
反対に、みるみる顔を青くしていくのは上田くんだ。

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