有害なる独身貴族
「……え? それって、まさか。……え? 店長と?」
「そうだ」
「嘘っ。数家さんじゃなくて? ちょ、店長ロリコン。犯罪っすよ」
「うるさい。これ以上追求すんな、店長命令だ」
「また横暴な」
上田くんは、私と片倉さんを交互にみて、最後困ったように私に問いかけた。
「マジっすか。房野さん」
「……うん」
「あー」
頭を抱えて、「やべぇ、呪いてぇ」と呟く上田くんを、今度は後ろから数家さんが小突いた。
「ほら、そろそろ着替えな、上田。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるよ」
「だって、数家さん」
「どうせ振られてたじゃん。諦めろってことだよ」
ドライに言い放つ数家さんに、上田くんを恨みがましい視線を向けてからポツリと私に言った。
「……絶対俺のほうが将来有望なのになぁ。後悔しますよ、房野さん」
ビクリと、私を抑えていた片倉さんの手が動く。
私は彼の服を掴んで上田くんに笑い返した。
「上田くんはきっと格好良くなるよ。……でも、私には店長が一番なんだ」
そうしたら、上田くんが泣きそうになる。
「……いい顔しますねぇ」
「ほら、もういいだろ。とっとと着替えてこい」
数家さんに追い立てられた上田くんは、出てきた馬場さんと入れ替わりになるように事務所へ入っていった。
そのままの体勢で見つめていたら、数家さんは笑顔に軽く青筋をたて、平坦なのに凄みのある声を出した。
「店長も余裕なさすぎですよ。職場では節度を守って下さい。ほら、二人とも外で少し頭を冷やしてらっしゃい」
年中笑顔の人の苛立ちは、静かなのにめちゃくちゃ怖い。
私と店長は、顔を見合わせて、スゴスゴと裏口から店を出た。