有害なる独身貴族
すると、彼は怪訝そうに眉を潜める。
「明日はダメだ。じいさんを店に呼ぶ日だろ」
「え? だって。おじいちゃんには」
「俺が連絡つけた。北浜さんの名前を借りて電話して、家族には年金についての話だと言って呼び出してもらったんだ。本当のところを話したら驚いていたけど、食べに来てくれると言ったぞ」
「嘘……」
「嘘じゃない。だからつぐみはこれを書け」
橙次さんが出したのは、既に新郎のところに名前の書かれた婚姻届だ。
保証人の欄には北浜さんの名前。もう一箇所は空欄だ。
私は頭が真っ白になる。
話についていけてないよ、おじいちゃんが来てくれるだけでもびっくりなのに。
「なんだよ。結婚しようって言っただろ。お前も頷いてたじゃないか」
「でもでも、私、片倉さんのご両親にご挨拶もしてないですよ」
「いいんだよ。役所辞めた時点で俺はもう諦められてる。事後報告で十分だ」
「よくないですよ。どうしてそういう大事なことを教えてくれないんですか」
「そこまで重要じゃないからだよ。俺と両親は同意の上で関わらないことを決めた。でもつぐみはそうじゃないだろ。じいさんと離れたくなんてなかったんだろ? だからじいさんには先に報告する必要があると思って、婚姻届を出すのを待ってたんだぞ、俺は」