有害なる独身貴族
「彼女と結婚したいと思っています。それで、あなたに保証人になって欲しいんです」
机の上におかれた、ボールペンと婚姻届。
昨日、私の名前が追加されているから、今は空いているのは保証人の欄だけだ。
「俺にか?」
「……はっきり言って、俺はつぐみの父親が嫌いです。彼には頼みたくない。つぐみ自身が大切に思っていて、つぐみを大切に思ってくれる人にお願いしたいんです」
「俺はつぐみを傷つけた。……一年前、つぐみをひとりにしたのは俺だ」
「でも今日あなたは来た。それはつぐみのことを思っていてくれたからでしょう。つぐみは、今も祖母の写真を飾って、毎日話しかけています。あなたとも仲の良い夫婦だったと聞いています。あなたが奥様を亡くしてショックをうけるのは、仕方がないことだ。それはつぐみも分かっています。その証拠に俺はつぐみからあなたを恨むような言葉を一度も聞いたことがない」
おじいちゃんの手が止まった。
唇を噛み締め、潤んだ瞳を隠すように一瞬そっぽを向く。
そして、無言のままボールペンを手にとって保証人の空欄に名前を書いた。
「……つぐみを、頼む。不憫な子だ。それもこれも、俺たちがあのバカ息子をちゃんと育てられなかったからだ」
頭を下げたその姿を見て、おじいちゃんはおじいちゃんで、私に負い目を持っていたことに気づいた。
だから私たちは遠慮しあって、お互い想い合っているのに上手く伝えることが出来ずに、ここまで来てしまったのかもしれない。
途端に、あの日の衝動が胸をよぎる。
暗い部屋の中、仏壇を前にした絶望感。雑然とした部屋で、怒りと涙をこらえて震えるおじいちゃん。
あの時伝えられなかった気持ちが、駆け上がってきて止まらなくなる。
「お、おじいちゃん」
「なんだ?」
「おじいちゃんも、一緒に暮らそう」
祖父と橙次さんが驚いたように私を見る。
一瞬ひるんだけれど、とにかく気持ちだけは伝えたくて一気に伝えた。