有害なる独身貴族


夢も見ないほどの深い眠りから、私の意識によびかけてくるのはケータイの呼び出し音。
そのまま、引っ張られるように意識が浮上した。


「……電話?」


体中汗だくだった。
ベタベタして気持ち悪いけど、今だ鳴り続けている電話をとるのが先だ。
こんなに長いはずないから、何度かかけ直されているのだろう。私は慌てて鞄の中を探った。


「はい、房野です」

『俺だ。片倉だ』

「店長?」

『熱、どうだ?』


店長が電話できるほど余裕のある時間なの?

さっき眠りに落ちた時は、余裕が全く無く、部屋の電気はつけっぱなしだった。
キョロキョロと辺りを見ると時計は夜中の十二時を指している。


「え! こんな時間」

『起こしたか? 悪いな』

「いえいえ。えっと、熱は計ってないですけど」


多分ある。
眠る前よりはリンパの腫れ感が少ないけど、まだおでこが熱い。


『起き上がれるか? 今、部屋の前にいるんだけど』

「は? 部屋?」


ええええええ!

驚きすぎて言葉が出ない。
嘘だ。片倉さんがうちに来る?
あり得ないあり得ない。


『食いもん持ってきただけだ。つか、お前気をつけろよ。鍵開いてんだけど』

「え? 嘘」

『嘘じゃねぇよ。開けるぞ?』


ギィ、と扉が金属の擦れるような音とともに開いた。

私、鍵閉め忘れてたの? 
そういえば開けた記憶はあるけど閉めた記憶は無いかも。

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