蒼いパフュームの雑音
3.漆黒
ライブの終わった会場を出ると、真夏の暑さがまだアスファルトに残っていて、むっとする空気が漂っていた。
そして、悲しいことにすっかり酔も冷めていた。
トボトボとホテルに着き、自動ドアが開いてぎょっとした。
「あっ。」
詩織だ。詩織がフロント前のソファーに座っている。
「ど、どうしたの?」
すると詩織は泣きそうな顔で、
「紅さん!わたし、バックを盗まれたみたいなんです!」
「はぁ?」
どうやら、彼女はライブ会場で座席の下に置いたバックを盗まれ、ホテルもライブが終わってから取る予定で、途方に暮れていたらしい。
「ほんとう、お会いしたばっかりの紅さんを頼るなんて、どうかと思ったのですが、電話も無いし、お財布も無いし、他に頼れる人が居な…くて。ひっく。」
そう言うと、彼女は泣き出してしまった。
「あー、わかった。わかった。とりあえず部屋に来れば。エキストラベットで良ければ、まだ泊まれるし。」
私ってお人好しだ。
ほぼ見ず知らずの人を泊めるなんて。
私はフロントに言い、詩織とエレベーターに乗った。
閉まりかかったドアを開けて、背の高い男とスタイルの良い女が乗り込んで来た。
そして、あの香りだ。
はっとして、思わず私は声をかけた。
「あのっ!すみません。その香り、何の香水ですか?」
「え?」
美男美女ってこうゆう事をいうのだろう。
男の人は眼鏡をかけているが、とても綺麗な顔をしていた。
一緒に居る女性は、多分モデルかなにかだろう。彼女も眼鏡と帽子をかぶっているが、スラリと伸びた手足はどう考えても一般人では無かった。
「この香り、気になるの?ボクと一緒に部屋に来る?そうしたら香りだけでなく、色々ゆっくり教えてあげるよ?」
「やめなってぇ。」
あ、完璧馬鹿にされてる。
口から飛び出したマヌケな質問に思わず恥ずかしくなり、自分の顔が赤くなるのがわかった。
タイミング良くエレベーターが私達の階に止まり、ドアが開ききるのを待たずに私は飛び出した。
背後で閉まるドアから、
「良ければ、おいでー!」
と、男の声と女のクスクスと笑う声がした。
(最悪!最悪!最悪!なにあの軽い男!大嫌い!大嫌い!大嫌い!)
ドスドスと歩く私に、詩織が高揚した声で、
「紅さん!今のって緋色ですよね!もう一人はモデルのクレハですよ!」
「え?」
信じられなかった。
緋色は私が10年程前、rosé rougeと同時期に好きだったバンドのボーカルだ。
同時期、とうより元々緋色のバンド、earthが好きだった。
earthの雨宮とrosé rougeの凛が限定ユニットを組んで、ロゼルージュを知り、好きになったのだ。
しかし、あれが緋色だったとは。
あんなに好きだったのに、気付かないとは。。
しかも、あの軽さ。一番嫌いなタイプだ。
人を小馬鹿にしたような喋り方や、『女に慣れてます』ってゆう対応。
好きでなくてよかった。
当時の私だったら、色々な意味で 死んでいたかもしれない。
歩く私の少し後ろで、詩織が何か言っていたが、私には全く聞こえなかった。
部屋に着き、ベッドに座ると電話が鳴った。
電話の主は柊だった。
待ち受けが見えていた詩織は、気を使ったのか部屋を出ていった。
私は一息着く暇を与えない電話に苛立った。
「なに?」
「べーにー!飯食お!俺、おごるから!」
詩織も居るし、断りの言葉を伝えようとすると、こちらの返答も待たずに、
「真面目に!ちゃんと話したい事があってさ。」
「ちゃんと話したい事?」
「そう。これからのこと。」
思いもよらない言葉が電話の向こうから聞こえたので、私は言葉につまずき、「わかった。」と言ってしまった。
電話を終える頃、詩織が部屋に入って来たので、理由を告げると焦ったように私を急かし、自分の事は心配ないと言った。
そして、悲しいことにすっかり酔も冷めていた。
トボトボとホテルに着き、自動ドアが開いてぎょっとした。
「あっ。」
詩織だ。詩織がフロント前のソファーに座っている。
「ど、どうしたの?」
すると詩織は泣きそうな顔で、
「紅さん!わたし、バックを盗まれたみたいなんです!」
「はぁ?」
どうやら、彼女はライブ会場で座席の下に置いたバックを盗まれ、ホテルもライブが終わってから取る予定で、途方に暮れていたらしい。
「ほんとう、お会いしたばっかりの紅さんを頼るなんて、どうかと思ったのですが、電話も無いし、お財布も無いし、他に頼れる人が居な…くて。ひっく。」
そう言うと、彼女は泣き出してしまった。
「あー、わかった。わかった。とりあえず部屋に来れば。エキストラベットで良ければ、まだ泊まれるし。」
私ってお人好しだ。
ほぼ見ず知らずの人を泊めるなんて。
私はフロントに言い、詩織とエレベーターに乗った。
閉まりかかったドアを開けて、背の高い男とスタイルの良い女が乗り込んで来た。
そして、あの香りだ。
はっとして、思わず私は声をかけた。
「あのっ!すみません。その香り、何の香水ですか?」
「え?」
美男美女ってこうゆう事をいうのだろう。
男の人は眼鏡をかけているが、とても綺麗な顔をしていた。
一緒に居る女性は、多分モデルかなにかだろう。彼女も眼鏡と帽子をかぶっているが、スラリと伸びた手足はどう考えても一般人では無かった。
「この香り、気になるの?ボクと一緒に部屋に来る?そうしたら香りだけでなく、色々ゆっくり教えてあげるよ?」
「やめなってぇ。」
あ、完璧馬鹿にされてる。
口から飛び出したマヌケな質問に思わず恥ずかしくなり、自分の顔が赤くなるのがわかった。
タイミング良くエレベーターが私達の階に止まり、ドアが開ききるのを待たずに私は飛び出した。
背後で閉まるドアから、
「良ければ、おいでー!」
と、男の声と女のクスクスと笑う声がした。
(最悪!最悪!最悪!なにあの軽い男!大嫌い!大嫌い!大嫌い!)
ドスドスと歩く私に、詩織が高揚した声で、
「紅さん!今のって緋色ですよね!もう一人はモデルのクレハですよ!」
「え?」
信じられなかった。
緋色は私が10年程前、rosé rougeと同時期に好きだったバンドのボーカルだ。
同時期、とうより元々緋色のバンド、earthが好きだった。
earthの雨宮とrosé rougeの凛が限定ユニットを組んで、ロゼルージュを知り、好きになったのだ。
しかし、あれが緋色だったとは。
あんなに好きだったのに、気付かないとは。。
しかも、あの軽さ。一番嫌いなタイプだ。
人を小馬鹿にしたような喋り方や、『女に慣れてます』ってゆう対応。
好きでなくてよかった。
当時の私だったら、色々な意味で 死んでいたかもしれない。
歩く私の少し後ろで、詩織が何か言っていたが、私には全く聞こえなかった。
部屋に着き、ベッドに座ると電話が鳴った。
電話の主は柊だった。
待ち受けが見えていた詩織は、気を使ったのか部屋を出ていった。
私は一息着く暇を与えない電話に苛立った。
「なに?」
「べーにー!飯食お!俺、おごるから!」
詩織も居るし、断りの言葉を伝えようとすると、こちらの返答も待たずに、
「真面目に!ちゃんと話したい事があってさ。」
「ちゃんと話したい事?」
「そう。これからのこと。」
思いもよらない言葉が電話の向こうから聞こえたので、私は言葉につまずき、「わかった。」と言ってしまった。
電話を終える頃、詩織が部屋に入って来たので、理由を告げると焦ったように私を急かし、自分の事は心配ないと言った。