蒼いパフュームの雑音
4.白
部屋に戻ってもまだ未奈は戻っていなかったので、そのままラウンジに向かった。
ラウンジのカウンターは外の景色が見えて、独りで飲むにはもったいない雰囲気だった。
携帯を出し、ホテルに戻ったと未奈にメッセージを送信してすぐ、着信音が鳴った。
ラウンジの外に出て、大きな窓に寄りかかった。
「もしもし?」
「あ!紅?戻ったならこっち来ればー?めちゃくちゃ楽しいよー!rosé rougeのメンバー、何と全員居るの!もちろんearthのメンバーも!そんで、VIPに招待されて、ドンペリがじゃんじゃん空いて…」
クラブ独特の、規則正しい重低音が響く電話の向こうで、未奈は大きな声で興奮しながら喋っていたが、私は話が終わる前に会話を断ち切った。
「今日はホテルに居るよ。仕事はどう?片付いた?」
「うん、大丈夫!終わったから明日はユニバ行こうー!!」
「わかった。あんまり遅くならないでよー?」
「はいはーい!」
明らか過ぎるテンションの違いに、電話を切ったらどっと疲れが出た。
席に戻り、飲もうと思ったグラスの中はもう空っぽになっていた。
「おかわり、お持ちしますか?」
清潔感のある年配のバーテンダーが問いかけた。
「あ、せっかくなので何かカクテルを作ってもらっても良いですか?」
「もちろん。どのようなお味がお好きですか?」
「……嫌いなお酒も味も無いので、お任せします。」
穏やかな笑顔を見せて、バーテンダーは作り始めた。
「お待たせ致しました。ジャックローズです。」
出されたカクテルは薔薇色の赤い宝石のようなカクテルだった。
「アップルブランデーを使ったカクテルです。エレガントなお客様のイメージでお作りしました。」
照れくさい言葉も今は何だか心地よい。
一口飲むと、りんごの香りと優しいブランデーのアルコールで、さっきまでの苛立ちやモヤモヤした気持ちが、喉元から洗い流したかのようにスッキリした。
ゆっくり、ゆっくり味わって、眼下に広がる夜景を見ていた。
まだ明けない空を確かめながら。