乾闥婆城
「可愛いが、相変わらず何か不気味な子じゃね」

 向かいの瀬戸物屋の女将が、少女の後ろ姿が遠ざかってから声をかけた。

「あんたもよくあんな愛想のない子に構ってやるもんだよね」

 重ねて言われた甘味処の女将は、ふふ、と笑う。

「愛想はないけどねぇ。お人形みたいで可愛いじゃないか」

「そうかね。気持ち悪いよ」

 あのおしのという少女を見るようになったのは、半年ほど前からだ。
 毎日毎日、決まった時刻に下駄を鳴らしてこの市の中を歩いて行く。

 何と可愛い子供だろうと、興味を覚えて声をかけたのがきっかけで、よく子供の好きそうな菓子をやるようになったのだ。
 だが不思議なことに、そんな女将ですら、一度もおしのの声を聞いたことはない。

「小さいナリで苦労してるんだろうから、仕方ないさね」

 甘味処の女将はそう言って、市の先を見た。
 というのも、一度気になって後を尾(つ)けたのだ。

 おしのは市の外れの八百屋で青菜を買い、行きあった棒手振り(ぼてふり)から豆腐や豆を買って、元来た道を戻って行った。
 住んでいるところまで尾ける気はなかったので、その辺りの店の者に話を聞いた。
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