乾闥婆城
「ちょいと女将さん。何をぼっとしてるのさ。あの子に魂でも持っていかれたんじゃないだろうね?」

 瀬戸物屋の女将のだみ声に、は、と我に返った。

「ほれ、あんな気色の悪い子の相手なんかするからだよ。しっかりおしよ」

 ばん、と背を叩かれる。

 瀬戸物屋の女将はおしのを気味悪がっている。
 正確には、市の店の皆がそうだ。

 おしのが市を通るようになった初めの頃は、それこそあの美貌に、皆声をかけたものだった。
 市松人形が歩いているようなものだ。
 誰の目をも惹く。

 が、声をかけられれば振り向くものの、おしのは相手が何を言ってもじっと見るだけで、何も喋らない。
 なまじ顔立ちが美しいだけに、その無表情は不気味さを増すようで、そのうち誰も声をかけなくなった。

 おしのの大きな目で見つめられると、魂を抜かれる、との噂もあるぐらいだ。

「不思議じゃないか。私は気になるよ」

 ぽつりと呟いて、女将はおしのの去った先を見つめ、ふと首を傾げた。


 あの辺りに遊郭があったのは、いつのことだったろうか?
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