美しいだけの恋じゃない
「んー…。決定的なミスは犯してないからねぇ。まぁ、ただ単に重要な仕事を任されていないってだけの話なんだけど。それに、私の同期が辞めた時はさすがにちょっと問題にはなったみたいだけど、約10年前だから。パワハラに関する認識は一般化していなかったし、同期は『厳しいご指導を受けたのは自分が至らなかったから』って言って辞めて行ったのよ」


そう説明しつつも、田中さん自身心底納得いかないような口調だった。


「本人が何も訴えを起こしていないのにそれ以上追求する事はできなくて、結局『これからは新人に対して、もっと寛大な対応をするように』っていう上からの注意だけで終わっちゃったみたいなんだよね」

「その点全然改善されてなさそうなんですけど」

「あれでも一時期よりは大人しくなったみたいよ。それに、その事件以降、あの人が教育係に就く事もなかったし。表面上は目立ったトラブルは起こしていないから、上も動きようがないのよ」

「…うかつな事したら、反対に師岡さんが被害者ぶって、労基に駆け込むかもしれないですしね」

「そうそう。いかにもやりそうでしょ?だからずる賢いっていうのよ」


そこで田中さんは、何も発言せずただ会話に耳を傾けているだけの私の存在を思い出したようで、視線を合わせつつ続けた。


「とにかく、金曜日の件は皆うっすらと真相を察してるから。須藤さんが必要以上に気に病む必要はないからね」
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