美しいだけの恋じゃない
「つまり私はああいった体験をとっくの昔に済ませていて、すっかりその行為に慣れきっていて、一晩相手をさせても別に何とも思わないだろう、職場で会ってもなに食わぬ顔で接して来るだろう、決して面倒な事態にはならないだろうと、思われていたという事ですよね」


言葉を繰り出しているうちに、再び呼吸が荒くなって来たけれど、構わずに続けた。


「上手く行けばその後も、体だけの関係を続けられると思っていたのではないですか?私みたいな女なら、喜んでそれに応じる筈だと」

「そんなっ…」
「世の中に数多く出回っている、男性にとってだけ都合の良い妄想が散りばめられた、破廉恥な創作物の登場人物と同じ扱いを受けていたのかと思うと、とても悔しいですし、悲しいです…」


途中弁解しようとした彼を強引にはねのけて、そこまで一気に語り終えた所で、一度深呼吸をしてから、私は言い放った。


「現実世界で、そんな提案を甘んじて受け入れるような、プライドの無い女性はめったに存在しないと思います。少なくとも私は、愛を告白しあった間柄でもないのに、気軽にそういった行為に及べる人物には、嫌悪感しか抱けません」


その言葉を投げつけた瞬間、彼の体がビクッと震え、みるみる表情が歪んで行った。


……何であなたが、そんな辛そうな顔をするんですか。


やめて下さい。


加害者のくせに、図々しくも、被害者面なんかしないで。
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