奇聞録九巡目
古い街が残る場所で、夕食を取ろうと洋食屋に入った。
師走の20日も過ぎた頃は、クリスマスも近いため洋食屋も混雑していた。
適当に料理を食べて、一息ついていると、トイレに行きたくなって店員に訪ねる。
店の奥で、少し解りづらいが、料理を出す場所なら妥当だと思う。
洋式便座に腰を下ろして用を足すと、左側に不自然なほど長い鏡が気になった。
鏡は、便座にしゃがんで丁度顔を映す。
立った場合は何も映さない。
と、言うよりも自分の下半身が鏡に映る。
随分と変わった作りだ。
手を洗って、鏡を見るのは解るが、用を足しながら鏡を見る趣味はない筈だが・・・。
便座に座ってそんな事を考えていると、手を洗う水道の下に、山盛りの塩が置いてあった。
それこそ、どんぶりに山盛りの塩である。
しかも、所々が摘ままれた跡がある。
これもまた、不思議な事だ。
しゃがんだ状態で、手を伸ばせば丁度塩を摘まめる位置に置いてあり、よく見ると塩が振られている場所に、白いものが散乱してある。
同じ場所に塩が撒かれているのだ。
とても不思議なトイレだった。
トイレを出て、店員にこのトイレについて聞いてみた。
店員は酷く口ごもる。
「古い町ですから・・・。色々ありますので・・・。」
それだけを言って、テーブルの片付けに行ってしまった。
あのトイレは、未だに謎だが、真実を知ろうとは思わないでいる。