鬼社長のお気に入り!?
「八神さん……」


 八神さんはデスクの上に置かれていた北見川デパートの案件用紙を手に取ると、「ふぅん」とあまり興味なさそうな反応をした。


「すみません、私照明デザインとか無知に等しくて……」


「無知なら無知なりに勉強すればいい、ここで「できません」って諦めるのもお前の勝手だけどな」


 うぅ、相変わらず冷たい……。いいじゃないの! やってやろうじゃないの――!


「誰も断ったりしません。その案件、私が受けて立ちます」


 両手をぐっと握って気合いを入れるポーズをすると、八神さんがふっと笑った。


「ほんと、お前って単純だな。けど、アドバイスはしてやる」


「ほんとですか!?」


 嘘、八神さんがアドバイスしてやるなんて……! 初めて聞いたよそんな言葉――!


「ただし、どうしても自分で考えてわからなくなった時だけだ。それ以外は聞いてくんなよ?」


 わ、わかってますよ、そんなこと……。


 八神さんと恋人になったからといって四六時中甘いわけではない。特に仕事中は今まで以上に厳しい。やっぱり八神さんは不遜で無慈悲な男だ。


「まぁ、他にも何かあれば聞いてこい。仕事以外のアドバイスもしてやるよ」


「え……? 仕事以外って……?」


「例えば……ベッドの上とかでさ」


「っ!? な、ななななに言って――」


 うろたえる私を見て八神さんが笑う。


 けれど、その笑顔にはもうどこにも影も闇もなく、ようやく本当の八神さんを知れたような気がして嬉しくなった。


 八神さんがどんなに無慈悲な人でも、私にとっては極上の人だ。


 そんな八神さんと早く肩を並べたくて、今日も私はその背中を追いかける。  END

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