柴犬主任の可愛い人
柴主任のパーカーは洗い立てだったみたいだ。試供品の柔軟剤を使ってみたら、いつもより強い匂いになった気がすると言っていた。
それじゃ、ない。その奥に他の、いい匂い。
華さんから貰った香水じゃない。お店で試したときのトップノートでもなけりゃ、店員さんが説明してくれたミドルノートのそれとも違った。ラストノートは……直接体感してしまったときのことを思い返して暴れたくなったけど今は割愛。
「私の阿呆……」
これは、秘密ごとだ。
二度目に、柔軟剤じゃない、もっと好ましい匂いが柴主任から香った。正体は、――柴主任本人のもの。体臭とかいうと生々しくて耐えられないから言わない。
お風呂上がりの香水も付けていない、気づいてしまった柴主任のそれは、牛乳石鹸みたいなそれは、ほうっと身体の力が抜けて心地よくなる、思わず眠ってしまうくらいの安心感をもらってしまう、それ。
ラストノートのそのあとの、柴主任本人のそれに、最も反応してしまった。
そして蘇る記憶。
倒れた私の元に駆けつけて来てくれて、抱きとめてくれたときも、私は柴主任に包まれ、それを感じたことを思い出す。痛くて寂しくて心細かったのに、包まれた瞬間に安堵してしまい、意識を手放したんだ。
何故かなんて、そんなこと……。
そうこうしていると、部屋の引き戸が開いた。
「おはよ」
小顔美人が、そこからひょこりと顔を出す。
「しっ、汐里~」
お見舞いに来てくれた汐里に昨日の謝罪を口にしながら泣きつくと、怒っていないからベッドに凭れろと押してくる。
「傷口見た?」
「怖くてまだ……。ガーゼ交換するからそのとき思いきって見てみる」
私が盲腸持ちで、薬でまぎらわせてたのを知っていた汐里は、当然の結果だと整った眉を吊り上げる。長年言われ続けていたことを、これが最後だからと怒ってきた。
「だからっ、早く手術しろっつったでしょ!! こうなる前にっ!! 盲腸だって命の危険あるんだからねっ……余計な心配させるな」
それについては、謝るしかないんだけど……。