柴犬主任の可愛い人
 
 
「そうですか」


「でも、結局は華さんと私の意見にすぎないので。それこそ相手次第ですからね」


「ていうか柴くん。相手はそもそもいるの?」


ナイス疑問を投げ掛ける華さんを心中では盛大に援護射撃をし、表面ではジーマミー豆腐に舌鼓を打つ。亮さんのは本場沖縄のより美味しい。食べたことないけど絶対。


亮さんこれ美味しいですと感動すれば、今日の帰りに持たせてくれるとありがたいお言葉。自分でも作れるのならば、大きなタッパーで作って、それをそのままスプーンで掬って食べたい。甘いタレをかけたもちもちした食感はデザートだ。おやつをこれに変えたらヘルシーなのかな。


私と亮さんがレシピについて話す隣では、柴主任が相手はいないと言っていて、情報はすかさずキャッチする。


亮さんのお宅は戸建て住宅で、それもいいかなと夢見る柴主任は、マンションの質問も、どうやらそんな架空の話題だったらしい。


柴主任が未来を想像することは、どうやら亮さん華さんにとって大層嬉しいことだったらしく、いつしか華さんだけでなく亮さんも加わって。話は逸れていき、理想の家とはどんな家かという議論になってたけど。


「うちはリフォームだったから、新築に憧れないわけじゃないが」


「二階があるっていいよな。マンションのコンパクトさは、あれはあれでいいけど、庭欲しいかも」


「管理は大変よ。マンションはそこが楽だと思った」


「青葉さんは、どんな家がいいですか?」


「私は……洗面所の内側から鍵のかかる家がいいです」


「……ずいぶん、ピンポイントですね」


「誰かと一緒に住むなら、そこは昔からの夢でした」


私は歯磨きが苦手で……磨くことが嫌じゃなく、口の奥に何かを入れるのが苦手で、毎朝歯を磨いてはえづくのだ。お恥ずかしながら。昔はそれを兄に横で笑われながら毎朝洗面所で喧嘩してたものだから、可能ならひとり焦らず磨ける状況を作りたい。


夢の説明をすると、皆さんに笑われる。今だかつて、同調されたことはない。


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