柴犬主任の可愛い人
 
 
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それは十月の、まだおでこに汗をかいて出勤した日のこと。


七分丈の服で出社してみれば、社内は空調によってずいぶんと涼められていた。カーディガンを忘れてきたことに気づいたときにはもう遅い。仕事は始まってしまい、冷える身体でパソコンを打てば作業は捗らず、部長から言い渡された倉庫の整理に立候補した。その作業は、翌日に社長の巡回があるときには必ず命じられるものだ。


いつもいつも、誰かがやってくれればいいと名指しされないその作業は、柴主任が作成したアミダくじで決まるほど人気がないんだけど。今日はあの、暑苦しい倉庫が恋しくなった。


急ぎの仕事はなく、この作業に関しては多少時間がかかっても怒られない。だって社長対策だしね。


といっても、紙の資料や書類が少なくなった現代、社長巡回には必ず整理整頓し、消防のチェックも定期的に入るものだから、そんなに乱れてはいない。先日、ひとつ閉鎖になった店舗の諸々が積まれた一角を片付けてしまえば、あとは乱雑に突っ込まれたファイルを直せばいい。


お昼休みを挟んでそこから一時間経てば、作業は終わった。高い棚のせいで空調が上手く流れないこの倉庫。棚の位置を少しずらせば風が動くと思って、広瀬か誰かを呼んできてそうしようと思い立ち、スマホを取り出した。倉庫の掃除には携帯を許されるのだ。戻るのは面倒だからこれで呼び出してしまおう。


さすがに少し蒸すかな。


五分休憩がてら一旦廊下に出る。すると、部長の大声で笑う声がした。


隣にある喫煙室から聞こえる部長の声は弾んでいて、もうお一方に話している。


「先日の見合いだが――」


へぇ。部長の紹介でお見合いした人いるんだ。部長はこの職種おあつらえ向きな人で、縁結びが上手い。何処かからその人に合った相手を連れてくる。本部より現場のほうが合うんじゃなかろうか。よく指導に自ら赴いているのは楽しいんだろうな。


デスクに戻ることにして、喫煙室の前を通ろうとした。部長を仲人にするかもしれない人が誰なのか、興味が湧いたのだ。


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