柴犬主任の可愛い人
「――ほら。神田さんが困ってますから」
私の妄想を違うふうに捉えてくれた主任の嗜めに、店長ご夫妻は我に返る。なんだか申し訳ない。
「ごめなさいね。懲りずにこれからもご贔屓に」
「はい。今まで勿体なかったなって後悔ばかりです」
「あら嬉しい。――ちなみに、今日うちを選んでくれたのには何かあったのかしら?」
「っ」
「あっ、別に言わなくても構わないのよ。参考までに、若い女性のお客様のご意見が伺えたら、くらいのものだから」
私が、新参にもかかわらず、友人たちの輪の中に小娘を当然の存在として受け入れてくれ、話の流れで聞いてくれただけの、決して他意のない問いかけに、私は詰まってしまった。
それか、優しい優しい女将さんは、もしかして私があれこれを表情に出してて、目の下の隈やビールを煽る姿に心配させてしまってたのかもしれない。友達の部下を気にかけてくれたのかもしれないけど……。
送別会の帰り際、鏡に写った隈の濃い自分とダークサイドをまた、身の内に強く感じた。
「――鈴蘭が、招いてくれたので」
まあ、それくらいなら言ってしまっても構わないだろう。
でも、いつもよりペースの早いビールで、私もかなり酔ってたのかもしれない。
「いつも、気になってたんです。綺麗な花が生けてあるなって」
毎日毎日、違う花があった、白い小さな鈴蘭が今日は生けてあるお店の入り口。花は私の目線と同じ高さにあって、毎日、それを横目に早歩きで通り過ぎてた。
「鈴蘭の花言葉は、まあ色々とあるんですけど、ひとつが“幸福が訪れる”で、……まあ、ちょっと、それに惹かれて。あと、鈴蘭って、私の誕生花なんです」
幸福が訪れる。またいつか私にも。
なんとなく不幸せを、生活の中でふとした瞬間に感じて感じて。払拭出来るきっかけを、毎日探して探して、
私はそこそこ普通に過ごしてるのだ。