柴犬主任の可愛い人
「幸せのお裾分け、欲しかったんです。私も幸せになれるかなって。……それでおめでとうとか言われちゃったり……」
やはり私も酔っばらいだ。ちょっとだけ、それは愚痴が混じり、止まらない。
泣き出してしまうとか思われたのだろうか。そっと、女将さんが新しいおしぼりを手に乗せてくれた。面倒な客と認識されたら辛いなあ。通えなくなるじゃないか。……ああ。でも……。
「ああっ」
「……なんですか、主任」
大きな声の直後、閃いたと、そんな必要ないのに同時に謝ってくる主任が面白かった。
「水上さんと榊くんのことですか? 神田さんは水上さんと仲が良かったですよね。落ち込みますよね、すみません」
「主任がなんで謝るんですか。確かに、怒ってはいますよ。会社の規則に盛り込まれてない暗黙の了解ルールで無理目な異動とか退職とか、ないですよね。夫婦ですよ。考慮されるべきです。それに、なんで社内恋愛が駄目なんでしょう」
何故、社の不満を連ねてるというのに店長さんご夫妻の表情に緊張が走るのかはわからなかったけど、そのときは、とくに気にすることもなく。
「すみません」
「だから主任のせいじゃないのにっ。――あ、あれですか? 主任が実は社長の息子で、とかなら理解します。秘密の次期社長とかですか? はたまた近いお身内とか」
「とんでもない。一般社員ですよ。ただの」
「だったら……」
「僕の、せいですから」
「へっ?」
「社内恋愛が厳しいとか……まんま、僕のせいでそうなった節もあるので……」
そう、いえば、耳にしたことがある。
申し訳なく頭を掻きながらずっと謝る主任は、もしかして相当酔ってらっしゃるのか、ふにゃりと眉を下げ微笑んで、そのワケを謝罪してくれた。
噂として耳にしたことを思い出した。
私が入社する前のことらしい、主任のこと。
本当だなんて、あまり思ってなかったこと。