柴犬主任の可愛い人
 
 
なんて我が儘で勝手で酷い仕打ちをする人だろう。


私を注意する目は悲しく怒っていて、責めてくる。そんな感情を理解出来る私に柴主任はした。それくらいの仲になった。


私はずいぶん、柴主任に優しく、大切にしてもらえた。……それは天にも昇る嬉しさで、地獄も同時に味わう。


何故自分から遠ざかって違う場所でばかりいようとする? 何故こっちにはもう来ないんだ。楽しかったのに。楽しくなかったのか? そんなことはないだろう。だったら何故……悲しい寂しい……。


……柴主任は我が儘だ。全てを手になんて、そんなことしたって満足するのは自分だけで、いっときのことだ。


一番大切にしたい人だけでいいじゃない。気軽な呑み友達に、そんな執着しないでよ。


わかってる。私もいけない。


とても近しくなってしまった私たちは、きっと他から見れば密すぎる。それは柴主任にとって、楽だから、楽しいからに尽きるだけで、それゆえに離れ難くて未練も残る。きっと、柴主任の可愛い人にも呆れられて、それでもただの、楽しくて仕方がない呑み友達だと私を言い張れば、選ぶべき生涯の人が離れていくことになる。


幸せに、今度こそなりたいんでしょ?



こんなことになっても、私はまだ柴主任のを好きでいる。執着に歓喜さえする。……この感情が加わるうちは、もっと状況は悪くなる。いつか私はどろどろで汚い存在になって、周囲に異臭を放つみたいに害をなすかもしれない。


好きだから大切にしたいのに、好きだから壊したくなるかもしれない。


私は所詮、そんなものだ。狭量で、柴主任の何倍も我が儘で。思いやりの欠片もない。




職場の階に到着して扉が開くと、礼儀も何もなく、私は真っ先にエレベーターを降りる。向かうは更衣室で、当たり散らすみたいに、コートのフードにタオルを充ててどんどんと拳で叩く。太股の上でやってるものだから、明日はきっと内出血だ。


いい加減、怒りよりも足の痛みが勝ってきた頃、ようやく緩められる拳。だらりと落とした腕から下って指先のその下には、温くなったココアがある。


買ってくれた瞬間はきっと優しさだけを詰めてくれたココアを、私はもう飲むことなく捨てた。


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